平行写真
本書『平行写真』は、横位置の写真だけに限定された 300枚の変哲のない光景がたんたんと連なる構成となっています。何の強要的な情感もない写真群が、『これは一体なんのためにまとめられた本なのか?』と、つかみきれないままに展開していきますが、わたしたちは次第に、富澤の隣に立って撮影現場を見ているような、一緒になって歩いていく=「平行移動」をしているかのような錯覚をもちはじめます......。
「ぬくもりだの暖かさだの、そんなのは誤魔化しですよ。僕は、人生の本当の姿を描きたいんです。」映画監督・小津安二郎氏はそんな言葉を残しています。写真/写真集という表現もその特性上、どんなドキュメントであろうと広義の「フィクション」の扉をくぐってしまいます。しかし、決して「真実」を写せるわけではない写真/写真集というフィクションの中に入ってもなお、富澤の写真は「ただそこにある」「本当の姿」だと思わせてしまう、圧倒的なリアリティの光を放ちます。この『平行写真』の、最初の写真の “ 前 ” にも、最後の写真の “ 後 ” にも、本から顔を上げればわたしたちの目の前には変わらない光景があるだけです。わたしたちの体には劇的な変化は訪れません。しかしそれは、この写真集がわたしたち自身の “ これまで ” と “ これから ” の「平行移動」と溶け合っているからなのかもしれません。
「僕の最初の一台は父の形見だった。
その時はなんとなく父が覗いたファインダーを自分も覗くことで、寂しさを紛らわしていた気がする。
それが故に初めからあまり大した物を撮ろうという意識がなかった。
ふらふら歩いては、別に何も写らなそうな中空を狙ったり、単純に動くものに反応してシャッターを切っていた。
しかし装置であるが故に条件さえ整えば必ず何か写り込むのだ。
ダイヤルを回してシャッタースピードや絞りを決めボタンを押せば、手元に収まった小さな箱の中の歯車とバネが目にも留まらぬ速さで跳ね上がる。
そうするとフィルムの表面で化学反応がこれまた一瞬起きる。
残るはイメージの痕跡。
こういった一連の工学、光学、化学の反応と連鎖そのものが好きだったし、なんともいえず楽しかったのだ。
しかし思い返してみるとずっと長い間、僕が撮ったものを褒めてくれたのは遠い親戚で哲学者のおじさんと、父の友達のバイオリニストのおじさんと、母だけだった。」― 富澤大輔
― 出版社説明文より
- 判型
- 183 × 214 mm
- 頁数
- 312頁、掲載作品300点
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2023
- エディション
- 300
- ISBN
- 978-4-9912385-2-9