ストリートフォトグラフィー写真集 私のTOP 5:鈴木達朗

ストリートが持っているエネルギー、そこに内在する焦燥感や張り詰めた空気が映し出された『Friction / Tokyo Street』(同名シリーズは2016年に開催されたSteidl Book Award Japanを受賞) が好評の鈴木達朗。ストリートフォトグラフィーの魅力を伝える鈴木のTop 5をご紹介いたします。

 

1. ロバート・フランク『The Americans』

ロバート・フランクのアメリカンズは毎日手に取ることを日課にしている。アメリカ縦断の旅、彼が捉え、一冊にしたアメリカの表情は、強く、決定的な瞬間が満載されているわけではない。しかし、何度見ようとも飽きはこない。計算したかのようなあざとさは感じられないのに、見れば見るほど、確かに綿密に構成されているように感じる不思議な写真集だ。なぜここまで惹かれるのか。それ自体に何かが宿っているような、力を帯びた写真集である。僕が目標としている、まさにバイブル的な写真集だ。

 

2. ウィリアム・クライン『New York 1954.55』

写真集 New York、Rome、Moscow、Tokyoの四部作、それにParis。どれも全て好きだが、彼の地元だからだろうか、New Yorkは一際力強く感じ、一番惹かれている。大胆な構図や、アレ・ブレ・ボケ、見開き大画面でNew Yorkの人々や街が生々しく迫ってくる。絶対に手放す気にはなれない、スナップの醍醐味が味わえる写真集だ。

 

3. 有野永霧『虚実空間 都市』

有野永霧さんのことは展示で初めて知り、そこで写真自体の力に深く引き込まれた。急いで写真集を探して購入し、またそこに激しい感動があった。アングル、距離感、光、構図、タイミング、何もかも全てが完璧な瞬間が集められた写真集で、この様なものが存在すること自体に衝撃を受けた。主にロンドン、ニューヨーク、大阪の都市の写真で構成されており、ページを手繰るたび、それらの街が次々と立ち現れる。しかしそれらの都市の特徴や匂いのようなものが排除されており、タイトル通り虚実空間 都市を彷徨うことになる。写真の一枚一枚にも、一冊の写真集としても、とにかく最初から最後まで魅了される。

 

4. 森山大道『写真よさようなら』

アレ・ブレ・ボケが極限まで押し進められた写真集。この写真集によって、自分が考えていた写真のルールや規格みたいなものが、至らぬものだと思い知った。その森山大道さんの精神や写真の凄まじさは、まるでインプロのフリージャズ、阿部薫と高柳昌行のアルバム「解体的交感」の音のようで、ただならぬ気配に詰め寄られる感覚に陥った。僕自身の意識とは遥か先にあるもので、到底辿り着けるとは思えない。ストリート写真の極北にいつまでも圧倒される。

 

5. トッド・ハイド『House Hunting』

一軒家がこれほど美しく、あやしげで魅力的に写し込まれた写真集はあるのだろうか。一枚一枚が丁寧に撮影された写真だとわかるようで、見るたびに彼の誠実な仕事ぶりに魅了されては敬服する。ジャンルで言えば純粋なストリート写真集とは言えないが、自身がStreet Photographyを立ち返って考えるきっかけとして、大切にしている写真集だ。

 

鈴木達朗
1965年東京生まれ、横浜在住。2008年より写真活動を始める。今年6月にドイツの出版社Steidlから『Friction / Tokyo Street』を出版。

「ストリート写真を撮影する理由は、この世界は如何に美しく、興味深く、素晴らしい、そして時には狂気じみた点があるかということを提示したいためです。写真とこの私のカメラを通した私自身の目によって。私の写真を見てなにか感情が動いたならばそれは私にとってとても幸せなことです」