世界

世界

岡田敦

出版社:赤々舎

**第33回木村伊兵衛写真賞を受賞した、最も注目すべき写真家・岡田敦の5年ぶりとなる新作。

本作では写真集『I am』で発表したポートレートの写真に加え、海や杉林などの風景写真といった新しい作品展開を見せている。目の前の世界を深く見つめ、内なる世界を捉えようとする写真のなかに、既存の意味や価値を脱ぎ去った、崇高な美しさが立ち現われる。**

「世界」

 神々が住む神秘の湖は、かつて人間が近づいてはいけない恐ろしい場所だといわれていた。周囲を絶壁に囲まれ、濃霧で湖面を見ることさえ難しいその湖は、神々が住む美しき場所であると同時に、恐ろしい場所としてこの世界に存在していた。美しさと恐ろしさ、人はそうした相対するものが同居しているものの中に、崇高なるものを見いだしてきたのかもしれない。

 美は時々わたしを混乱させる。それは微笑ましい美しさよりも、不安や緊張、恐怖や哀しみを伴っている美しさに突き動かされることがあるからだ。それは、大自然の中に、神の存在と同時に人間の生命を脅かす自然の猛威を感じてきた先人たちの感覚と通じるものがあるのかもしれない。

 人間がこれまで構築してきた世界という概念は、時代や文化とともに変化してきた。たとえ文明の発達により、世界のあらゆることがこれまで以上のスピードで解明されようとも、人間が世界のすべてを把握することなど決してできない。世界は常に不確かで、わたしたちの目の前で変容し続けている。

 わたしは写真を撮ることによって、より深く世界を認識したいと思っている。それは、物理的な距離の移動や時間の経過によって世界を把握することでは決してなく、より深く世界を見つめることによって、より深く世界と交わり、より深く世界を認識することである。

 大海原を目の前にした時、人は何故自分の存在の小ささに気づくのだろうか。不確かな世界を認識することによって、わたしは「わたし」という存在を発見する。不確かな「わたし」という存在を発見することによって、わたしは再び世界を認識する。世界とわたし、それは複雑に交じり合い、入れ替わる。見え難いものを見るために、わたしは写真を撮るのだろう。

岡田 敦

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