吉行耕平は1946年広島県生まれ。プロカメラマンを目指して上京した70年代初頭に、夜の公園に集い屋外で絡み合うカップルやそれを覗き見る人々を赤外線フィルムで撮影、72年に『週刊新潮』にその一部が掲載され話題となりました。昼間の公園とは大きく姿を変えた夜の公園で繰り広げられるこの不思議な光景を、なんとか写真に定着させたいと感じた吉行は、暗闇でも撮影可能な赤外線フィルムと赤外線ストロボの併用による撮影方法を研究するとともに、シャッターを押すことなく夜の公園に幾度となく通い、まずは覗き屋たちの仲間となりました。というのも、自由に撮影するためには、カメラを持ってはいるが吉行もまた覗き屋仲間の一人に過ぎない、と覗き屋たちに認めさせる必要があったからです。こうして、71から73年の新宿公園、そして少し時期を置いて79年の外苑前の公園で撮影された写真群は、80年に写真集『ドキュメント・公園』としてまとめられました。写真集出版前年の79年に東京で開催された個展では、来場者は懐中電灯を片手に、暗い会場内で等身大に引き伸ばされた作品を見るという、観客に覗き見を体験させるような展示でした。

 

時を経て、00年代半ば頃から写真集『ドキュメント・公園』が、主に海外の写真集コレクターの間で話題になり始めました。写真集を通して吉行の写真は、日本の70年代の、写真史に類例のない極めてユニークな写真表現として海外で評価が高まり、撮影からおよそ30年を経て「The Park」として新たな注目を浴びることになります。07年にニューヨークで開催された海外初の個展は、『ニューヨーク・タイムズ』はじめ多くのメディアでとりあげられ、以降、世界各地で個展が開催され、さまざまなグループ展やアート・フェスティヴァルで展示され、現在に至っています。

 

こうした海外での吉行の作品の再評価は、70年代の日本の写真が国際的に高い評価を得ているという周辺状況に加え、「The Park」シリーズが、覗き見行為における見る見られる関係性、写真家と被写体における見る見られる関係性、さらには、写真と写真を見る者の関係性といった重層的な視線を孕み、それがまさに写真というメディアの本質をも浮き彫りにしていることによります。

年表

1946 広島県生まれ。
1972 赤外線フィルムを使用して夜の公園で撮影した写真が『週刊新潮』に掲載され、話題となる。
1974 英国の通信社の東京支社にカメラマンとして勤務(~1978年)。
1978 フリーカメラマンとして活動を開始。『Focus』『写真時代』など雑誌を中心に作品を発表。

出版物

1980 - 写真集『ドキュメント 公園』(せぶん社)
1992 - 写真集『吉行耕平写真集 赤外光線』(北宗社)
2007 - 写真集『Kohei Yoshiyuki: The Park』(Hatje Cantz/Yossi Milo Gallery)

個展

1979 -「公園」駒井画廊(東京・日本橋)
2007 -「The Park」Yossi Milo Gallery(ニューヨーク)
2007 -「The Park and Love Hotel」Douglas Udell Gallery(ヴァンクーバー)
2009 -「The Park」Brancolini Grimaldi Arte Contemporanea(ローマ)
2009 -「公園1971-1978」Place M(東京・四谷)
2009 -「沼」蒼穹舎ギャラリー(東京・四谷)
2010 -「The Park」M+B Gallery(ロサンジェルス)
2011 -「The Park」Institute of Modern Art(オーストラリア、ブリスベン)
2011 -「The Park」BLD Gallery(東京・銀座)

グループ展

2007 - 第5回ベルリン現代アートビエンナーレ
2007 - 第7回光州ビエンナーレ
2009 -「The Provoke Era」サンフランシスコ近代美術館
2009 -「The 70s」フォトエスパーニャ2009(マドリッド)
2009 -「Darkside」ヴィンタートゥーア写真美術館(スイス)
2010 -「Exposed: Voyeurism, Surveillance and the Camera」The Tate Modern(ロンドン)、サンフランシスコ近代美術館、ウォーカー・アート・センターに巡回

吉行耕平の書籍