遊回

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遊回

富澤大輔

出版社:南方書局

「その時、僕の大事なものは全部確実に僕自身を含めて確かにこの世界に存在し続けている。
この本は誰もが感知して忘れてゆく光の尊さに満ちている。光は時間である。今、毎秒生まれる、懐かしい未来の想い出がある。」
― 富澤大輔

「すべての出来事を忘れたくない」
この世にそんな未練を残した幽霊のお散歩の気分で、中判フィルムカメラによって撮影された全170点のカラー写真。作家にとって初の大判写真集。
人はなにか大きな出来事に立ち会うと、そこを拠り所にして、依存していく。しかし「なにも起きていない瞬間」なんてこの世には無かった。それを鋭敏に嗅ぎつけ、小さく小さく、しかしたしかにカメラに収める。はからずも『字』『平行写真』から連なり、シリーズとなった三部作の最終作品。

「あい」(愛)からはじまる240テーマ、3600項目を収録する小学館の「21世紀こども図鑑」という大百科が大好きだった。この世にまつわることならなんでも載っているような、絵本にすれば20冊はあるであろう厚みと机の上で広げないと読めない大きさ、そして「ずかん」という大人びた?言葉そのものの響き、これら全てが僕を賢くしてくれる様な気がした。

僕はこの図鑑が解けてばらけるほど隅から隅まで幾度も捲って眺めた。「恐竜」「カメラ」「妖怪」「カメ」「人体」「さばく」が特にお気に入りのテーマだった。しかしそんな中でも一味違う、異色な内容で見逃せないものが「宇宙」だった。それまでの本で語られてきたモノの働きやトキの流れをまるでなかったことにするような内容には酷く混乱し魅了された。知的好奇心などというものよりも怖いもの見たさで写真やイラストを眺めては妄想に耽った。しかし母の膝の上に座って読み聞かせてもらっているうちはそれでよかったのだが、これを一人で眺めるとなると決まってとてつも無い恐怖が後から押し寄せてくる。想像を絶するスケールとダイナミックさは僕が大好きなお母さんも犬の回鍋肉もイマジナリーフレンドの黄金虫も全部その深い闇の中では針の先にも満たなかった。
そこには瞬きした次の瞬間には全て夢だったかのように消えてしまうような存在でしかないことが書いてあるような気がしたのだ。

そういった日は決まって悪夢を見た。今でも印象深いのが、何もない闇の中に物凄く大きな直方体のケースが宙に浮いている夢である。その乳白色で半透明のケースは前後に一定の周期性を持って大きく揺れる。中には黒のレゴブロックが大量に入っており砂漠の砂のように聳え、それがケースの揺れに伴い雪崩のように崩れてはまた新たな丘を築き、そしてまた崩れていった。そしてそれは無限に続くかのような長い時間が大きな音と共に流れていった。僕は恐怖に大泣きし目が覚めた。寝汗でぐっしょりと濡れた背中と心配する母と父の顔がそこにあった。その時、僕の大事なものは全部確実に僕自身を含めて確かにこの世界に存在し続けているし、僕がいるのは過去でも未来でも無限の彼方でもなく今この瞬間であることに安堵し、また泣いたのだった。

― 富澤大輔

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判型
355 × 257 mm
頁数
192頁、掲載作品170点
製本
ハードカバー、ケース
発行年
2023
言語
日本語、中国語
エディション
400
ISBN
978-4-9912385-3-6

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