Zaido

Zaido

地蔵ゆかり

出版社:Steidl

東北地方の雪深い村で継承されてきた新年の祭り『祭堂(Zaido)』。亡くなった父の夢枕によってこの祭りと出会うことになった地蔵ゆかりにとって、この神秘的な祭事を記録する行為は、自身の魂の再生とオーバーラップする時間であったでしょう。厳しい精進潔斎の行を経た能衆たちの優雅な舞と日本の厳しい冬が生み出す限りなく美しい原風景、厳しさと清らかさのみで成り立つ『祭堂−ZAIDO』には日本人の郷土に寄せる愛と真摯な姿勢が読み取れます。現代のお伽噺のような典雅な祭事が乗り越えてきたさまざまな災禍に想いを馳せ、改めて日本という大地が育んできた文化と人と自然の美しい関係について考え直してみたいと思います。

リンフォーマ... それは悪性リンパ種とも呼ばれる血液のガンだ。
その怪物は私たち家族の最愛の父の体を、徹底的に蝕み、死に追いやった。
父の死後、悲しみが癒えることはなかった。その悲しみは妹の身体をも蝕んでいった。
そして、私自身も2度にわたる大怪我を負ってしまった。 怪我は致命的だったが、なんとか一命はとりとめた。
少しずつ傷も癒え、日常生活に戻ろうとした頃、今度は東北大震災が日本を襲った。
黒い波が街を飲み込み、家々が次々に燃えていく光景に、日本中の人々が絶望し、希望を失っていった。
次々と訪れる悪夢のような現実に、心も体もボロボロに傷つき、私は完全に打ちのめされてしまった。

そんなある日、亡くなった父が夢枕にたった。
夢の中で 父が小さく囁いた。父が昔いた雪深い村へ行くようにと。
しばらくして私は、白銀の雪に覆われた村に降り立った。
あたり一面霧が立ち込め、まるで夢の中の世界に導かれたかのようだった。
そこでは1300年も続く、神秘的な祭事が行われていた。
4つの村から集まった能衆(舞楽を舞う人)が、つぎつぎに優雅な舞を奉納していった。
気の遠くなるような年月継承されてきたこの祭事だが、その間には火災や盗難・戦争など、幾度となく存続の危機にさらされてきた。

能衆は長短の別はあるが、厳しい精進潔斎を行わなければならない。
最も長い者は四十八日間の行を行ってきた。
現在では一部の集落でしか行われなくなってしまったが、身も凍るような早朝に水垢離(みずごり)をとる。
(水垢離= 冷水を被り自身の罪や穢れを洗い身を浄める行)
現代社会に於いて、精進潔斎は能衆にとって大変厳しいもののようだ。
日本は海に囲まれた島国だ。ここには独自の生活や文化がある。
また、日本には地震・津波・台風・火山噴火などの自然災害も数多く存在する。
地震は毎日起こっているし、東北の大震災後にも大きな地震がたびたび日本を襲っている。
私は、人々が多大な犠牲を払って伝え続けてきたかけがえのないものが、一瞬にして消えてしまう底知れぬ恐怖を感じた。

しかし、どんな困難があろうとも、何度でも立ち上がり、貴重なものを守り続けようとする人々の姿は、私にまた生きる勇気と希望を与えてくれた。
計り知れない程の困難を乗り越え、この素晴らしき祭堂を伝承し続ける人々の郷土への愛と熱情に心を打たれ、
私はこれらの伝承を自分なりの視点で捉え、残していこうと決意した。

― 地蔵 ゆかり

 

「祭堂(ざいどう)」とは?
岩手県、青森県との県境に位置し、冬の寒い日には零下20度にもなる秋田県 鹿角市 八幡平の大日堂で、毎年1月2日に4つの集落から集まった能衆(のうしゅう)によって舞が奉納される祭事。1300年間、継承されてきたこの祭事は、古老からの言い伝えを元に再現され、能衆は舞楽を行なうために、厳しい精進潔斎を行うことが習わしとなっています。
https://kyoto-muse.jp/news/118213より

判型
232 × 350 mm
頁数
164頁、掲載作品69点
製本
ハードカバー、ケース
発行年
2020
言語
英語、日本語
ISBN
978-3-95829-313-7